高校生活の最後の冬休みが明日から始まる。終業式がクリスマスイブのイブってのはどうかと思う。せめて、十七日の金曜日にしてくれ。  と、そんな事を思っても後戻りなんてできない。雪がちらつく程度に降り始めている中、俺は自転車に乗って帰宅していた。  とにかく寒い。防寒用帽子、手袋、カイロ、マフラー、コートを常備していても僅かな隙間から冷気が入りこみ、俺を寒がらせる。ったく、冷風は何で俺に悪戯する。悪戯するなら違う人にしやがれと、少し苛立ちを覚えてしまう。  はぁ……。俺には彼女がいない。また友達とむさ苦しいクリスマスを過ごさにゃいかんのか?  そう、俺にとってクリスマスとは嫌な行事の一つだった。男女のカップルがいちゃいちゃしていてるのが、俺に見せつけているようで非常に困っていた。いちゃつくなら他をあたれ! 友達も徐々に彼女を作り始めて、一緒に一夜過ごす友達が減っていっているのだ。今年は俺を含めてたった三人だぞ!? 去年までは十二人とかだったはずなのだが。  赤信号で止まっていた俺は、上を見る。  ……俺は不幸の星の下に生まれてしまったのか?  駄目だ駄目だ。こんなとこでノイローゼになるわけにはいかない。俺が青信号に変わるまで、手を擦って待っていると。  反対側にいる一人の女子が、横断歩道を渡り始めた。彼女は黒くて長い髪が特徴的で、可愛らしい私服で何の防寒具も身につけていなかった。  おいおい、まだ赤だぞ? 信号見えてねぇのか?  不安に思った俺は自転車から降り、彼女を見守りつつ走り出す準備をしていた。彼女は横を見ずにこっちに向かって歩いてきていた。すると、荷物を積んだトラックが右側から曲がって突っ込んできた。 「予想通りかよっ! ったく、運悪ぃ!!」  俺は大急ぎで彼女を救うべく走り出す。  トラックが突っ込んできた事を彼女は今知ったのか、立ち止まってしまって挙動不審になっていた。 「ちょっと荒いが、抵抗すんなよ!?」 「え、ちょ、きゃっ!?」  疾風の如く彼女を助けた。お姫様抱っこしか助ける術がなかったのだが、これもこれで良い体験だ。案外彼女は軽かった。 「うぉっ!?」  あ、危ねぇ。もうちょっとで俺が殺されてたぞ!?  腕の中でちんまりと動かなくなっている彼女は、 「……」  言葉を失っていた。俺はとりあえず反対側に行き、 「よっと」  彼女を降ろした。 「怪我無いか?」 「え、あ、はい……」  彼女は、迫って来るあのトラックが脳裏に蘇っているのかちょっとビクビクしながらそう返事した。きっと、トラウマになるだろうな、こりゃ。 「んじゃ、俺は家に帰るから。今度から気をつけろよ」  青信号に変わっている事を俺は確認した。反対側に止めてあった自転車を取りに行って、もう一回横断歩道を渡る。その時もまだ動けない状態なのか、彼女は座り込んでいた。 「ほらよ、これやるから早めに家帰って身体を温めろよ」  俺はコートを渡し、再び帰路へと着いた。 * * * * * * * 「……ってワケで遅くなった。スマン」  家に着けば、そこにはもう友達が二人家に来ていたので、素早く服を着替えてリビングに入ったのだ。 「にしても、よくやるなぁ」  濃い緑色のタートルネックに、ジーパンを穿いた宏人(ひろと)は炬燵に入ってコーヒーカップを片手にしてそう言った。 「俺だって出来るかどうか不安だったしな」 「流石、元陸上部エースだ」  宏人は俺の肩を叩き、褒めてくれる。 「……で、そのコートはその彼女にあげた、ちゅうわけやけど、おんどれはあれ大切にしてたんちゃうんか?」  青いパーカーを羽織った卓弥(たくや)は、炬燵に入りPSPをしながら言った。  あのコートは誕生日プレゼントとして貰った、訳ありで大切なコート。色々と話があるけど、それはまた別の物語。 「まぁ、そうなんだけどあの状況で何も貸さない方が逆にダメじゃん。流石に防寒具無しでは寒すぎるだろ」  俺はそう言いながら炬燵に入る。 「で、何でその子を助けたん?」  卓弥はPSPの画面から目を離さずに訊いてくる。 「……もう、目の前で誰かが死ぬ事なんて起こさないようにだよ」  俺がそういった瞬間、卓弥がPSPのボタンを押す音だけが鮮明に聞こえてきた。 「あ、ああ……。悪かった、達二(たつじ)」  卓弥は申し訳なさそうに言った。  ……そう、俺は過去に目の前で両親を亡くしているのだ。あれは俺がまだ小さい時の事。居眠り運転のトラックが俺と両親が乗っていた車にぶつかってきたのだ。瞬時に俺は両親に抱く形で守られたみたいが、その両親の身体には色んな破片が刺さっており、即死だったとのこと。今でも鮮明に覚えている、生温かい血や両親の体温。それ以降、俺は目の前で死にそうな人を見つけたら助けようと思っているのだ。今日トラックに轢かれそうになった彼女が初めてだけど。 「……達二? どうかしたのか?」  心配になったのか、宏人は俺の顔を覗き込んだ。 「いや、別に大丈夫だよ」  と言ったつもりだけど、宏人はコーヒーカップを炬燵の上に置いて、俺の両肩に両手を置く。 「達二。俺らはあの時の達二の気持ちは分からない。だけどな、これだけは覚えていてほしい。俺と卓弥はどこにもいかない。だからな、俺らにも頼れ。お前は一人で背負い込み過ぎだから。一人でやるより三人でやる方が楽だろ? だから、なんかあったら俺らに相談してこい」  真剣な目つきで俺を見てくる宏人の顔が近づいてきた。 「……分かった。分かったから離れてくれるか?」  唇がもうちょっとで当たるところですから……。 「せやぞ。一人でやるよりワイらに頼れっちゅうことや。何のためにワイらがおんねん」  PSPを一度スリープ状態にした卓弥は、俺の方を向いて宏人の言葉に続くように言ってくれた。 「宏人……卓弥……。俺、こんな良い友達持ってて良かったよ」  涙が出てきそうなぐらいに感動した。二人がそれほど俺の事を思ってくれているなんて予想もしていなかったから。  感動して何も出てこなかった状態が続いているとき、インターホンが鳴った。 「こんな時間になんだ? 達二、何か頼んだのか?」  宏人はそう言ってきた。 「いや。こんな時間に配達とか迷惑すぎるだろ」  っていうか、俺は何も頼まんタイプだけど。 「ワイはなんも知らんぞ」  卓弥はそう言った。ってか、ここ俺の家だぞ!? 両親が現金一括ニコニコ払いでローンを返した家だぞ!?  すると、もう一度インターホンが鳴った。 「ま、取りあえず行ってくるよ」  玄関に行き、玄関の向こうにいるのが誰なのかを確認できるモニターを見るが、暗くてよく見えない。仕方なく、俺は玄関を開けてみた。 「……」  そこには黒いスーツを着こなし、グラサンをかけたSPのような男性が二人並んで立っていた。 「……貴方が達二さんですか?」  禿げていないSP1(仮称)さんが俺に尋ねてきた。 「ええ、そうですけど」  すると、禿げた方のSP2(仮称)がどこかに無線を繋いで「こちらエリゾン。お嬢様が探していた人物を発見いたしました。どうすればいいでしょうか? ……はい、分かりました」などと呟いていた。 「……あの、一体どういった用件でしょうか?」  俺は結構不安になってきたため、SP1に聞いてみた。 「貴方が帰路に着いているとき、右も左も分からないような女の子を助けましたね?」 「ええ、まぁ」 「その女の子は私たちの主であり、お嬢様が貴方に受け渡されたウール一〇〇%のコートを返したい、と仰っていましたから、今からここにお嬢様が来られますよ」  要約すると、手渡しで返したい、と。遠回しな言い方をするもんだなぁ。 「おーい、達二ー?」  すると中から宏人の声が聞こえてきた。はっ、そうだ。 「すみませんが、あと何分で来ます?」 「すぐ、来ますよ」  と、言ったと同時に法定速度をちゃんと守っているのか守っていないのか分からないスピードを出して来たリムジンが目の前で急停止する。 「……法定速度は守ってますか?」  などと、変な事を聞いてしまう。 「ええ、ちゃんとギリギリ守ってますよ」  ギリギリまで出してんのかよ。 「エリゾン、クラウス。ちょっと席を外してくださる?」  リムジンの開かれたドアから現れた人物の声が俺まで届いた。 「「はっ」」  と、同時に本当に姿を消す二人。どんな身体能力してるんだよ……。執事は身体能力高いのか!?  そして、彼女は俺の近くまでやってくる。 「先程はありがとうございます。これはお返ししますわ」  俺が着ていたコートとは段違いのように見えるけど、これは速洗速乾したな。皺一つねぇよ。 「あ、いや。わざわざありがとう。別に返さなくても良かったんだけど」 「いえいえ。借りた物は早く返す方が良いですから」  その人は笑顔を見せてくれる。なんて可愛らしい顔をしているんだ。 「あっ、自己紹介が遅れましたね。私は平条一葉(へいじょうかずは)です」 「お、俺は安西達二(あんざいたつじ)です」  何で緊張してるんだろうな、俺。こんな事、今までなかったはずなのに。 「これからもよろしく。達二様」  笑顔を見せて手を出して来た。俺はそれを握手のサインと思って、 「ああ、これからも……え?」  握手を交わしてしまったのだが、その言葉がイマイチ、ピンと来なかった。その意味は後々知ることとなってしまった。 「達二、これは一体どうゆうことや?」  ふてくされた表情で卓弥は言ってきた。 「だから、俺が遅れた理由の続きであって……」 「だけど、それはもう人助けの領域を超越してるんじゃないのか?」  と、横から宏人が言ってきた。まぁ待て。お前らの言いたいことは分かる。だけどなぁ。 「後方に佇むSP二人がいるから身動き取れねぇんだよ」  そう、SP二人……確かエリゾンとクラウスだっけ? が、お嬢様、もとい平条さんを見守っているのだ。俺から一歩たりとも離れようとしない平条さんを。 「達二様、これはどういった家具で?」  そしてその平条さんは空気を読まず、俺ら四人が入っている炬燵に興味深々だった。 「それは炬燵と言って冷えた身体を温める家具の一種だよ」 「そんな物があるなんて知りませんでしたわ。私の家は常に暖房が効いてますので」  お金持ち発言。俺らがまるで貧しいような言い草だ。 「なぁ、達二。その、「様」ってのは何なのだ?」  不思議に思ったのか、宏人は聞いてきた。俺も知りたいよ。 「だって、あの時助けてくれた達二様が、本当の王子様みたいでかっこよかったんですもの……。あの凛々しい顔は一生忘れませんわ」  ポ、と頬を赤く染めて言ってきた。俺が王子様みたい……だと? 何か不思議な感じだ。 「「……」」  すると卓弥と宏人は無言になった。何を考えているのかなんては分からないけど。 「……ちょっとトイレ行ってきても良いか?」  場の空気が悪すぎる。本当に行きたいのだが、平条さんは離れようとしない。 「御一緒します」 「いや待て。トイレには普通一人で行くもんだ」  一緒に着いてくるとか、俺にどれだけ惚れてるんだよ! などと、内心思ってみたら俺が恥ずかしくなってきた。 「クラウス」  すると、平条さんはそう言うと、クラウスが口を開いた。 「私が行ってきましょうか?」 「いやおかしいだろ! 行きたいのは俺だ! 何でクラウスさんが行くことになる!?」  行かせろ……っ。俺の思いが伝わるのかどうか不安になってきた。 「なら、我々がトイレの拡大工事をしてきましょうか?」  エリゾンまでもが何か言ってきた。 「何で広くする必要がある!?」 「お嬢様と一緒にいられますから」  二人とも平条さんの味方だった。そりゃそうか。くそっ。 「と、取りあえず行かせてくれ。戻ってきたら何でもしてやっから」 「本当ですか!?」  その言葉に食い付いた平条さんは目を輝かせて手を離してくれた。とりあえず、行けるようだ。 「……哀れだな、ピュアボーイ」 「誰がピュアボーイだっ!!」  エリゾンが言ってきたので、取りあえず突っ込んでみた。そして、俺はトイレへ行く。 「ふぅ……」  久しぶりの解放感に包まれて、シンとしていた廊下に出たら、溜息が出てしまった。 「トイレトイレ……」  俺がトイレへ行って用を足し、遅れて戻ろうかそれとも早めに戻ろうか悩んでいたら、携帯が震えだした。 『達二ー、ちゃんと一人で過ごせてる?』  姉貴からの電話だった。姉貴の名は佳代(かよ)。今はもう結婚していてたまにメールや電話が来る程度だからすっかり存在ごと忘れかけていた。 「んだよ、友達と駄弁って過ごしてる」 『友達とかー。達二って彼女いないの?』 「いないから友達と駄弁ってんだよっ!」  俺の心境を理解してくれ。つい叫んじまった。 『ふーん。じゃ、これからそっち行くわ』 「はぁ!? 夫と仲良く過ごしてんじゃないの!?」 『夫がつれなくてさー。私だってたまに弟の顔を見に行ったりしたいわよ』 「ってか、今どこよ」 『家の前。何か超大きいリムジン止まってるけど、お金持ちの友達がいんの?』  マジで来てるし!! ってか家の前ならインターホン鳴らせよっ! 「分かったから、そこで直立不動でいてほしい。リムジンとか触ったらきっと危ないから」  平条さんの、とは言えないけど流石にヤバイんじゃないかって、俺の第六感が疼いている。 『えー、まぁ、分かったわ』  と、電話を切って俺は玄関へと行こうとしたら。 「あら、達二様。これからどちらへ行くんですの?」  タイミング悪く平条さんが現れた。待ち伏せしてたんじゃないのか? 「姉貴が戻ってきた。今の状況をどういう風に説明するか悩んでいるんだけど」 「堂々と「俺の妻だ」と言えばいいじゃないですか、達二様」 「色々と訊きたい事あるんだけど、何でそんなに昇格してるんだ?」  妻でも彼女でもないのに、何故平条さんは言い切れる? 「大丈夫ですわ。既にエリゾンが籍を入れてくれましたわ」 「……」 「それに、クラウスは苦笑いしながら達二様のお姉さまを通してますし」 「…………」 「私はもう子供の名前まで考えていますわよ?」  プチっ  何かが切れた。俺は何を思って平条さんを押し倒したんだろうな。きっと理性を保てなかったんだろう。 「きゃっ」  俺は平条さんに馬乗りになる状態で、平条さんが頭を廊下にぶつけないように、手でガードする。 「……達二様、その……TPOぐらい弁えてほしいですわ」  と、同時に。 「達二ー。来たわよー…………え?」  姉貴がやってきて、その後ろにはエリゾンとクラウスがいた。ヤバイ、これは非常にヤバイ――。  本能的にそう感じた俺は、身体をどかそうとするが、 「達二様。最後まで、やらないんですの?」  と、両足を使って俺を離そうとせず近づけてくる。徐々に顔をが近づいて――。  俺は、意識を失った。 * * * * * * * 「……」  夜も明けて朝の六時。俺は見ず知らずの部屋……ではなく、自分の部屋にいた。服もちゃんと寝間着になっており、俺の部屋には、 「すぃーすぃー……」  と寝息を立てて寝ている宏人と。 「Zzzzzz……」  と鼾をかいて寝ている卓弥が居た。  ……多分だけど、着替えさせて面倒見てくれてたんだな。やっぱ、こいつらは本当の親友だよ。  などと思いながら、少し違和感を感じた俺は布団をどけてみた。 「……達二様」  ビクッ  俺は驚いたね。可愛い寝顔をして寝ている平条さんが隣に居る事に。起きてるんかと思ったけど、寝言だったようで安心した。  ……何か大切な事を忘れてるような気がする。  俺はそっと起きようと思って動いたら、それに平条さんは気付いたのか俺にしがみ付いてきた。 「……私の王子様ぁ。どこにも行かないで……」  ど、どんな夢見てんだよ。だけど、その言葉に何かひっかかりを感じた。 「……クラウス、そこにいるか?」 「よく見抜けましたね」  と、布団の近くにクラウスは立っていた。 「何か俺がいないととても寂しそうな寝言だったからな。家族とかはいるのか?」 「……聞かれますか?」  ちょっと間があってクラウスさんは言った。 「……ああ」 「平条お嬢様のご家族は、誰一人いませんよ。執事が私とエリゾンを含めて一〇〇人、それにメイドさんが二十人だけです」  やっぱり。そうだった。  平条さんは――俺と同じ立場にいた。 「注意を怠ったトラックとの正面衝突でして。その時、エリゾンと私がお嬢様を守ったのですが、両親までは助けられず、お嬢様の望んだ通りには助けられませんでした。お嬢様の兄、平助(へいすけ)様は貴方の姉である佳代様とご結婚なさいまして、お嬢様は眼中にありません。だから、独りぼっちだったのですよ」 「……そうか。辛かったんだろうな、平条さんも」 「だから、貴方にお願いがあります。何としてもお嬢様を幸せにしてください。我々執事全員とメイド全員は貴方がたのサポートをします」  クラウスさんは、深く頭を下げた。 「……返事は、今の方がいいか?」  今なら平条さんも起きてないし、幸いこの事を聞いている人はいない。エリゾンさんはきっと扉の前にでも佇んで見張りしているんだろう。 「いえ、返事はお嬢様にしてください。ほら、起きておられますよ」 「……クラウスぅ? ここは私の部屋であって勝手に入ったらダメって言ってたのに、何で……?」  寝ぼけている! ここは俺の部屋だ!  平条さんは目を擦ってクラウスの次に俺を見て、 「……達二様……。達二様っ!?」  やっと我に返ったみたいだ。 「……お、おはよ平条さん」 「お、おはようございます、達二様」  ちょっと頬を赤らめながらそう言った。 「……ちょっと昨日の事思い出したんだけど、何でも聞いてやるって言ったよね?」 「はい、言いましたわ」  俺は続けて言った。 「だけど、俺から言いたい事があるから良いかな?」 「? はい」  頭の上に?マークを浮かべているような、不思議そうな顔を平条さんはした。そして、俺は言った。 「付き合ってください」 「……え?」  平条さんは目を丸くして、ポカーンと口を開けて俺を凝視していた。  ぐぁっ、恥ずかしい。後方ではニコニコしながら成り行きを見守っているクラウスがいるし、寝息も鼾も聞こえなくなってきた友達二名もきっとこれを聞いているだろう。なかなか起きれず、どうしていいかわからないから取りあえず成り行きを見守っていよう、などと考えているはず。  すると、平条さんはニコっと可愛らしい笑顔を向けて、  「もちろんですわっ」  そして、平条さんは俺の胸に飛び込んで来た。 * * * * * * *  少しだけ、その後の話をしよう。何故かって? そりゃ、気分が良いからだ。清々しい朝日を浴びようとした昨日の朝は、俺にとっては一大事の出来事に変わってしまい、色々とあったもんだ。なぁ、そう思うだろ? 「はむっ。んん〜っ、美味しい♪」  一葉はココアを一口啜ると、それが美味しかったのか頬に手を当ててとびっきりの笑顔になっていた。 「美味しいか、一葉」 「最高ですっ! こんな美味しい飲み物があったなんて!」  ここはとある喫茶店。初のデート記念日として俺らは外に出かけていたのだが、雪がちらほらと降ってきたので温かい所へ入った。 「それは良かった。にしても、ホワイトクリスマスかぁ……」  珍しい事もあるもんだ。 「たっちゃん、どうかしたの?」  俺が物思いに浸っていたのが気になったのか、一葉は訊いてきた。 「いや、一葉と出会った時もこんな感じに降ってたなぁって思ってさ」 「そうだね……。あのコート、結構暖かかったよ」 「へぇ、そうだったんだ」  俺はコーヒーを口に含んだ。ん、程よい温かさが身体に染みるぜ。 「だって、たっちゃんの体温もあったから」  俺はコーヒーを吹き出しそうになった。 「ちょっ、そういう恥ずかしい事言うな」  照れるだろ! 「てへっ」  一葉は自分がお嬢様って事を忘れているからだろうか、お嬢様っぽい行動が昨日からそんなに見なくなってきた。いや、違うな。昨日から俺の彼女になったんだから、俺に合わせようと一葉は努力しているわけだ。きっと、あれが頑張れるという証だろう。一葉の左手の薬指にハマっている指輪が。 「たっちゃん」 「ん、何?」  一葉は一息開けて。 「これからもよろしくねっ♪」  これまで一葉の笑顔を見て来たけど、これ以上ないような可愛い笑顔を俺に向けてそう言った。 「ああ、こちらこそよろしく」  昨日、つまり俺の誕生日であった日はサンタが俺に最後のプレゼントとして、一葉をくれたのだ。まぁ、正確には俺が告白したけど。そしてこのプレゼントは一生手放せない宝物。失ったら、俺は後悔するだろう。  最後に一言だけ言っておこう。  ――サンタさん、ありがとう。