春風が爽やかになってきた今日この頃です。私たちは、遊園地に来ました。  「きーもちーっ!」  私は両手を挙げて、笑顔で春風を浴びました。とても心地良いです。  「おいおい、あんましはしゃぐなよ? 病み上がりなんだから」  私のぼでーがーど(英語は嫌いですっ)として高梨晴海(たかなしはるみ)君と一緒に来ました。ふふっ、これって傍から見たらカップルって思われるよね!?  「ほら、ぼさっとしてないで行くぞ、晴美(はるみ)」  高梨君は私の手を繋いで歩き始めました。  高梨君の手、大きい……。  高梨君とは下の名前が一緒と言う事で、ペアカップルっ風に言うとペアネームですっ。私って超最高ですっ。  高梨君は既に準備していたのか如月遊園地のチケットを店員さんに見せて1日フリーパスを2枚受け取っていました。中に入ってから、高梨君がその1枚を私にくれました。  「ほら。なくしたら、アトラクション乗れないから気をつけるんだぞ」  「分かってますっ。遊園地を制覇しましょーっ!」  夢は大きくですっ。  「はいはい……。仁さんが苦労するのも分かるぜ」  高梨君が何かを呟いていたそうですが、私の耳には入ってません。もう、頭の中ピンク色です。    最初にお化け屋敷に行きました。  「ひにゃーっ」  「ちょっ、晴美。くっつくなよ」  怖くてついつい高梨君の腕にくっつきました。お化け怖いです……。  「いにゃーっ」  「ちょ、晴美……ぐぇ」  「ふにゃーっ」  「う、お、おい……んぁっ」  「うにゃーっ」  「……」  お化け屋敷から出てくると、私は何故かスッキリしました。  「高梨君、楽しかったですか?」  「……もう二度とお化け屋敷に行きたくねぇ。(晴美が)怖すぎる」  「そうですか? 私は楽しかったですけど」  何ででしょうか。入る前と比べて高梨君がやつれた気がします。    その次にジェットコースターに乗りました。それはもう最高でした。  「キャーーーーッ」  「ふぬぉぉぉぉぉ」  私は安全バーを信用して、万歳して風を受けて気持ちよくしてました。けれど、高梨君は何かを踏ん張っているようです。  「ほら、高梨君も両手を上げてっ!」  「無理! 俺、高いの嫌なんだよーーーっ!!」  ……そう言えばそうでしだね。乗る前に非常に嫌がってました。何でも高所恐怖症だとか。ちっちっち、そんなんではジェットコースターを制覇出来ませんよ?  「する気ねぇーっ!!」  そんな高梨君の声がトンネル内に響きました。  「うーん、高梨君、次何に乗る?」  「……遊園地、恐るべし」  「そうですか? とても楽しいですよ」  見る見るうちに高梨君はやつれていきます。  「次、か? もっと緩やかなのに乗りてぇ」    その次は高梨君の要望どおりに、緩いスピードで走るトロッコに乗ってシューティングするアトラクションに行きました。私、こういうの苦手なのです。  「うにゃー。難しい……」  光っている赤いランプのところに照準を合わせて打つだけなんですが、どうも私の銃だけ音がしません。当たったら銃から音がするんですけど、十回に一回しか聞こえません。高梨君は必ずといって良いほど毎回音が聞こえます。  「ふっ、伊達にゲーセンでシューティングやってねぇぜ」  そう言えば、一人でシューティングゲームしてたのを覚えてます。寂しいお方です。  結果、驚異的な記録を残した高梨君は何かキラキラ光った物を貰ってました。  「それは何ですか?」  「ああ。どうも高価っぽいガーネットのネックレスなんだが、俺はどうも似あわねぇな」  「じゃ、それ私につけてくれますか?」  「おう。じっとしろ、つけてやるから」  高梨君がそれをかけてくれます。  「……どうですか?」  「うん、とても似合ってるよ。なら、それは晴美にあげるか」  「ありがとうございますっ」  私は高梨君の腕に抱きつきました。  「ちょ、歩きにくいんだろ!」  「えへへ〜」  もう、離しませんっ。  一休憩と言う事で昼食を取りました。病み上がりという事もあるので、高梨君はおにぎりを作ってくれました。  「ほら。晴美の好きな具材入れてるから」  「わー、ありがとうございますっ」  んーっ、おいひぃ……。このシャキシャキ感、たまらないですぅ。  高梨君の作ったお握りは世界一美味しいと思いますっ。手で握ったとは思えないほどの米のシャキシャキ感、程よい甘さ、そしてとろける私の頬。あ、最後は私だけですね。多分、全員そうだと思いますっ。  「……ぷっ」  高梨君が何故か私の顔を見て笑いました。  「にゃ、にゃんですかっ!」  「いや、ほっぺたに米粒ついてるからさ」  高梨君はそれを何気なく取り、それを自分の口の中へ……。  「……」  私は俯きました。だって、今高梨君に見せられる顔じゃないんですから。  「ん、どうした?」  鈍いですっ。  私は高梨君の足を踏みました。  「ぬおぉぉぉぉ……」  高梨君は悶えてます。もう、一生悶えていればいいんですっ。  次は真上に高く上って一気に急降下するアトラクションに乗りました。右隣には高梨君がいます。  「怖くない、怖くない……」  なにやらブツブツ呟いているようです。何で高所恐怖症になったんでしょうか。ここから見る景色がとても良いですのに。  『3、2、1……GO!』  ギュンッ  「いーやーぁぁぁぁあ」  高梨君が怖がってます。あ、これ高所恐怖症を更に拍車をかけたんじゃないかって思います、うん。……自重しようと思います。  「……大丈夫ですか、高梨君」  「あ、あは。アハハハ……」  どうやら本当に怖かったそうです。  そして最後には締めと言う事で観覧車に乗りました。  「……なんで遊園地には高いところへ行くアトラクションばっかあるの……?」  観覧車だけでも怖がってます。  「ほら、下ばっか見るんじゃなくて外の景色も見るんですよ」  私は高梨君の隣に座ってます。流石観覧車、どちらかに重力が傾いても傾いていません。如月遊園地の観覧車ははいてくのろじーですっ。  私は一番高いところへ着くと同時に高梨君に外の景色を見るように促します。  「ほら、高梨君。外を見るんですっ」  「嫌ー。見たくなーいっ」  「高梨君っ」  「!」  「良いから……見るんですよ」  ……好きな人と遊園地に来たのに、二人して楽しめないのは嫌いです。  「晴美……」  高梨君は意を決したのか、外の景色を見ました。  「……」  「どう、ですか? 高梨君」  「……上から見たら、こんな風に見えるんだな」  下には蟻の行列のように並ぶ人だかり。向こう側にはとてつもなく広い海。その海の向こうに夕陽が沈むように見えて、海の色は茜色っぽくなってます。  「綺麗でしょ? 怖くていいですから、たまには私と同じ光景を見てください」  「そうだな……」  一番高い地点を通過した……と同時に。  ガコンっ  少し揺れた気がしました。  「ん? 止まった?」  高梨君は何気なくそう言いました。  『ご乗車している皆様に連絡があります。観覧車の一部が破損したため一時停止とさせて頂きます。すみませんが、車内では暴れないよう落ち着いてください。これから復旧作業を行いますので。繰り返します……』  そうアナウンスが入りました。  「……マジか」  「……そう、みたいですね」  私たちはどうする事も出来ません。私は不安になってきたので、高梨君の手を強く握りました。  「晴美?」  「な、何でもないですっ」  私は悟られないようにと気をつけていたんですが、声が少し震えているのが分かりました。  「……そうか」  高梨君は何も言わず、私を抱いて体を近づけてきました。  「にゃっ!?」  「大丈夫だ。俺がいつも傍にいるからさ」  その言葉は聞き覚えがありました。初めて高梨君と会った時も、こんな感じでした。  『大丈夫かっ!? しっかりしろっ。俺がずっとお前の傍にいてやるからっ』  その時は高梨君が激しく動揺していて、焦っていたのかもしれません。口調は違えど、語数は違えど。  「高梨君……」  「晴美……」  私は高梨君を見て、高梨君は私を見て。  お互いの顔を近づけて――  ガコンッ  「うぉっ」  「きゃっ」  チュッ  そんな擬音がなったのかもしれません。私と高梨君は目を見開いてお互いを見ています。何が起きたのか、まったく整理が出来ません。  「……ぁ、悪い」  高梨君はそう言って離しました。  「……」  「晴美?」  「うにゃあっ」  え、えと、私、再起不能ですーーーっ!!  「んん……」  私が目を覚ますと、そこは見慣れた私の部屋でした。可愛らしいぬいぐるみからコレクションなどなど……これらは私が集めた物から友達から貰った物もあります。そして、厳重に透明なボックスに入っているぬいるぐみは高梨君から貰った……  「高梨君っ!」  「んぁ?」  にゃ、にゃ、にゃんと高にゃし君が、私の部屋で……。  ぽぴーと音がなるような感じで頭が真っ赤になりました。  「……晴美? どうかしたのか?」  「にゃ、にゃんでもない」  ううっ、恥ずかしい……。  「そっか」  高梨君がこっちに来て、私の頭の上に手を置きました。  「そっか……。……その、あれだ。観覧車での出来事は悪かったな」  「わ、悪くないですっ。私の本願でしたからっ」  「本願?」  「にゃっ!!」  うう……すっかり高梨君のペースに飲み込まれてます。  「そ、そうなのか……」  照れているのか、顔を少し背けたようです。  「晴美」  「ん? 何です――」  か、と続けたかったんですけど、私の口に何かが当たって言えませんでした。それは――  「……これが、その……俺の気持ちだっ」  「……っ!!」  ……高梨君に、キスされたっ。されちゃいましたっ。  「わ、私もですっ!」  「え、ちょ、ま」  私はすかさず高梨君の唇を奪います。  「晴美……」  「ありがとうございますっ。『晴海』君っ」  今日から私の彼氏ですっ。大役頑張ってください。  これから私の日常はどうなるんでしょうか。とても楽しみです。