すたっ、と宙からエレジアが降り立つ。
その背後ではいくつもの死体が冷たく倒れている。任務完了だ。
今日もおしごとばっちり。わるいこはせんめつだ。教わったままの言葉で胸を張りながらくるりと振り向いて、完了報告をしようとすると。

くるりと世界が回った。

視界の中心を軸に、くるり。
あれ?と思う間もなく軋んだ心臓、せりあがった吐き気。思わず口元を抑えた手には、

まっかな血。

………、あ。
真っ白になる視界と頭。そのままエレジアは、白に沈んだ。







***


これはね、エレジア。ヒトがあるべき姿に回帰するための石なんだ。

『……、かいき?』
それは確か、初めて石を貰った時の事。
ほとんど初対面の、笑顔のお兄さん。それを虚ろに見つめながらエレジアは尋ねた。
『あるべき姿…本当の自分に戻る、と言えばいいかな。』
『ほんとの、エレ?』
『そう。君が秘めている本当の力、本当の才能だ。』
彼の言葉はとても、とても穏やかな音をしていた。
それは怒鳴り声でもなければ、金切り声でもなかった。その音色は、エレジアの心に柔らかく染み込んでいった。
『君は本当はとってもすごい力を持っているんだ。今はその力が眠っているだけ。その石は君に力を与えるんじゃない、君の持つ力を引き出してくれるんだ。』
『……エレの…ちから。』
『そう。君の、力。』
彼はそっと、エレジアの手を取った。びくりと怯えたその手に、殊更に柔らかく微笑みかけて。
そして、飴玉でも渡すように、その手に落としたのだ。

『君のお姉さんよりずっとずっと素晴らしい…君だけの力さ、エレジア。』

吸いこまれそうなほど綺麗な、緑色の石を。





そこで、目が覚めた。目に入ったのは、カーテンで仕切られた白い天井。
ぱちぱち瞬きをして、エレジアはゆっくり上体を起こす。すぐにずきりと胸元が軋んだ。
身体がとても重い。胸のあたりがずきずきと痛んでいて、手も少し痺れているような気がする。
(…………。)
……だけど。だけど。

「入るぞ、エレ。おっ前何やってんだよ大丈夫……か?」

レイドが来た時にはもう、ベッドは空だった。



***




絶叫の海の中へ、飛び込むように。
少女は駆け、宙を舞い、両手を広げた。無数の針を飛ばしながら。
緑石が光る、光る、光る。だから足はとても軽く動く。他のところ?それは、ひみつ。
足が動けば。
足が動けばそれでいい、の。

(エレの、ちから。)

誰よりも速くて。たくさんの針を飛ばす。
他の誰にもできない力。エレだけの特別。エレは、特別。
ちょっとくらい痛くたって我慢できる。痛くないよ。叩かれるより蹴られるより、痛くないよ。
エレはつよい子だから。エレは戦えるから。戦えるから、エレは、特別。

(あの子よりも、)

ずっとずっと、特別な子なの。戦えるから。戦える、限りは。





レンズゴーストの


fin.