「エレも行く。」
ざああと雨降る音が止まない昼下がり、買い物へ行こうとしていたレイドは目をみはった。
「……へ?マジで?お前雨嫌いだろ?」
「行く。」
「別に家で待ってていいんだぜ?」
「行くの。」
引き結んだ唇は頑として引かない構えだ。変なやつ、とため息を吐きつつそれ以上は何もいわなかった。



雨足は結構強く、ばらばら音を立ててアスファルトを叩いている。水溜まりは常にしぶきをあげ、時折足元をひやりとさせた。
大きめのビニール傘をさしながらレイドは黙々と歩いてみる。隣を歩くエレジアはもっと静かで、顔をのぞきこめば明らかに強ばっていた。
「………やっぱ帰るか?」
「や、やだ。」
「んな無理する理由もねーだろ…。」
「やだ!やだったらやなの!」
「あーハイハイ…。」
エレジアの頑固さは今に始まったことじゃない。ため息一つで流せる程度にはレイドも慣れていた。歩幅だけはゆっくりと合わせて、会話もなく二人は歩いた。
声はかけないが、ちらちらとレイドはエレジアを見やる。
ぎくしゃくと歩いているのがありありわかった。傘の輪から出ないように細心の注意を払っている。時折強い風で雨が吹き込むと、びくっと肩が跳ねていた。
………何やってんだ、全く。
ほっとくつもりがなんだか見てられなくて。不安げにさまよう彼女の手を、ぐいっと引いた。
「ふぇっ!?」
半ば怯えたようにエレジアが見上げる。レイドは呆れ混じりでエレジアを見やった。
「ほらこっち来とけ。はしっこいくから濡れんだよ。アホか。」
それからまた黙々と歩いた。繋いだ手は離さないまま。
「………。」
エレジアは喋らない。だからレイドも喋らない。けれどその沈黙は段々と居心地よくなってきた。
それは繋いだエレジアの手から、段々と緊張が和らいできたから。
「……あめ、」
やがて、ぽつりとエレジアがしゃべった。
「つめたいね。」
「そりゃ雨だからな。」
「……でも、今はつめたくないね。」
目をみはり、レイドはエレジアを見る。俯いたその表情は窺えず、察する事は諦めた。
安いビニール傘越しの、曇天を見上げる。

「……そりゃまぁ、傘さしてっからな。」







あめはつめたい。

ゆびがつめたくてうごかない。
おようふくがびしゃびしゃでさむい。
のどとおめめがとてもいたい。

ドアがあかない。



『傘さしてっからな。』

記憶の中で浴びていた雨が、ふいに止む。
見上げると安いビニール傘、振り向くと、呆れ顔のレイドがいた。

自分の手を、しっかりと握って。



かさのした


(さしてくれる、ひと。)

fin.



***
達城様主宰ハッシュタグ企画『雨空便り』に投稿させていただきました。
梅雨企画だというのにあまりそれっぽくない。